イー・アクセスによるアッカ・ネットワークスの買収をさらに模索中?
あけましておめでとうございます。実は、新年1発目の話題はNGN絡みで行こう、ということで準備を進めていたのだが、本日(正確にはすでに昨日となっているが)、今となっては数少ないADSLウォッチャーとしては見逃せないニュースが舞い込んできた。イー・アクセスがアッカ・ネットワークスに対し、”抜本的経営改革を求め、アッカ社経営体制の変更を提案”したというのである。
1年半ほど前に予言するような記事を書いた者の責任として、1年半前から現在までの状況の変化を簡単にメモしておきたい。
1年半前に書いた記事のサマリーとしては
.ライバルADSL会社による突然の大量株買い付け
.両社が合併した場合の買収メリットの存在
.NTT地域会社のフレッツの純減傾向の記録
.イー・アクセスによるアッカ・ネットワークスの株取得目的が”現時点では”純投資という微妙に不自然な点
といった点だろうか。
この1年半の動き(アッカ)
その後、イー・アクセスは物を言わぬ株主として大株主として居座ることとなる。
その間、アッカ・ネットワークスはといえばモバイルWiMAXの免許取得へ動いていた。その免許取得は叶わぬ夢となったが。また、筆頭株主であったNTTコミュニケーションズはイグナイトグループに株式を譲渡することで持ち株比率を低下させ(19.7→11.7%)、米国イグナイトグループとして8%を取得するに至る。なお、イグナイトグループはIT2000投資事業有限責任組合を通しては、アッカの設立当初からの提携先である。(注1)
また、社長もNTTコムからの社長ではなく、イグナイト主導の人事に刷新された。
しかし、イグナイトとしてはモバイルWiMAXの免許の取得を前提とした計画を立て、NTTコムより株式を引き受けたと推察されるが、免許取得が叶わぬ後の事業計画は会社側説明を見ても不透明と言わざる得なかった。
この1年半の動き(イー・アクセス)
その後、イー・アクセスでは1.7GHz帯の携帯電話事業者として設立した持分法適用会社(当時は連結対象)のイー・モバイルが2007年3月31日に商用サービスを開始した。
ここで気になる話題がある。イー・モバイルのイー・モバイルADSL無期限セット割キャンペーンだ。
どういったサービスかというと、イー・モバイルの契約ユーザに対し、親会社であるイー・アクセス経由で提供されるADSLサービスを事実上”無償”で”無期限に”提供するというものだ。
キャンペーン期間も非常に長く開業日から2009年2月28日までの申込みにかかる割引だ。あまり例がない。
なぜイー・モバイルはこのようなキャンペーンを行ったのだろうか?
技術的な視点で見ると、イー・モバイルのネットワーク運用効率が改善するメリットが考えられる。
2007年6月22日に行われたイー・モバイルの発表会席上、ユーザのデータ平均転送量が月当たり1.4GB、ヘビーユーザは6~10GBほど利用している、という問答があったという。(注2)
正直言って、バッテリーの制限があるモバイル環境のみでコンスタントにヘビーユーザの転送量を利用するのは難しい。自宅に通信回線を引かずに利用しているケースが想定される。
このヘビーユーザの利用量を平均的なユーザの利用量にすこしでも近づけることが出来ないだろうか?そうすれば、開業当初でネットワークが不十分な同社にとって、無用なコストを掛けた基地局の構築を避けることが出来る。
イー・モバイルとして、1500円(イー・アクセスへの支払いは1200円程度と推定される)のADSLサービス料を負担したとしても、それ以上のメリットがある話となるわけだ。
それが無期限セット割を行っている基本的な理由だと推測される。
だがしかし
それだけでは判断できない問題がある。
1年半前に書いたようなADSLサービスの純減問題は、一見好調そうに見えるイー・アクセスにも重くのし掛かっている。彼らの決算資料によれば2006Q4経過以降、純減に転じている。(ISP事業に分類されるAOLは除外した。)
2006Q4といえば、イー・モバイルが商用サービスを開始した日に1日掛かっている。サービス開始当初に無期限セット割を申し込んだユーザはとこの2006Q4のADSLユーザ数にカウントされたと推測される。
なかなか数字が好きな会社である。パズルのピースを嵌めていく作業は実に面白い。
このユーザ思いの割引サービスは、親会社思いのサービスであるかもしれないわけだ。言い換えれば、イー・モバイルのサービス開始日以降、イー・モバイルの新規ユーザは親会社のADSLサービスの純減を食い止める手段としても利用されているということでもある。
しかし、それでもいずれ本格的に来る純減に備え、なんらかの方策を考えていたに違いない。その対策のひとつがアッカ・ネットワークスの買収オプションだ。
また、今回始めて知ったことであるが、イー・アクセスの事業部門に”デバイス事業”、が増えていた。一体なんだ??と疑問に思ったが、持分法適用会社であるイー・モバイルの通信カード等のメーカーからイー・モバイルに対する卸業務を行っていると推測される。
様々な事情があるのだろうが、Yahoo!BBのモデムが複雑な流通経路でユーザの手元に渡ることになっている一件を思い出した。
また、昨秋からはオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)というモバイルWiMAX事業への少々無理のある参入希望も記憶に新しい。
なぜか長年の確執のあったソフトバンクと共同で無線IPブロードバンドのための子会社を設立するという、イー・アクセスとソフトバンクのADSLに関する確執を知るものには素直には理解に苦しむ参入希望だった。
残念ながら、この新規参入グループも免許を獲得することは出来なかった。これが昨年12月末の話である。
1月16日
ついに戦いの火蓋は切って落とされた。アッカ・ネットワークスは12月決算の会社であり、3月に定時株主総会が開催される。これに先立ち、イー・アクセスは、アッカ社の発行済株式総数の13.10%(2008年1月11日時点)を保有しており、筆頭株主の立場に躍り出た模様だ。
この株主総会に今回、以下のような提案を行うという。
1.(イーアクセスからの)新任取締役4名の選任
小畑至弘氏、大坂宗弘氏、エリック・ガン氏(非常勤)、石田雅之氏(非常勤)
2.現任社外取締役3名の再任
佐藤元信氏(非常勤)、佐々田法男氏(非常勤)、星野隆作氏(非常勤)
3.現任取締役3名の不再任
木村正治氏、湯川英彦氏、廣野公一氏
なかなか面白い提案である。ちなみに、小畑至弘氏はソフトバンクグループの企業である当時のBBテクノロジー(現在はソフトバンクBB)から小畑氏個人を相手取って損害賠償訴訟を起こされた希有の経歴を持つ技術者である。訴訟取り下げで解決した(注4)ということのようだ。当時、TTCのADSLスペクトル管理標準を巡る検討に関する議論について、小畑氏個人に対して訴訟を起こされたということで話題になった。
また、再任する社外取締役は佐藤元信氏がNTTコミュニケーションズ、佐々田法男氏が三井物産、星野隆作氏がイグナイトジャパンにそれぞれ関係している。この3社と敵対する意思がないという表明に見える。
現在の大株主をもう一度確認してみよう。
1位 イー・アクセス株式会社 13.10%
2位 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 11.7%
3位 三井物産株式会社 10.31%
4位 イグナイトBB投資事業有限責任組合 8.00%
5位 株式会社大和証券グループ本社 3.82%
6位 IT2000投資事業有限責任組合 3.16%
(2007年6月末の名簿より筆者で異動したと思われる部分を訂正した)
三井物産はイー・モバイルの設立の際にも当初より大株主として参画していた程なので、今回の提案を拒否するとは考えにくい。動向の焦点となるのはNTTコミュニケーションズとイグナイトだろう。NTTコミュニケーションズは徐々にアッカと距離を置く戦略を基本としているが、今回の提案に協力するのだろうか。イグナイトについては近年よく見られるような企業乗っ取りでアッカ株を取得したのではなく、設立当初からアッカの経営に参画している。また、最近ではNTTコミュニケーションズより譲渡を受けることで買い増しを行うなどの紳士的な行動を行っている。
しかし、投資ファンドは、投資を行ってその投資に見合う収益を回収出来れば良い。したがって、イー・アクセスの提案でイグナイトが利益を享受を出来ると判断すればあっさりイー・アクセスの提案に乗ってくる可能性がある。
報道機関の取材に対し、イー・アクセスの広報担当は「あくまで株式の保有目的は純投資であり,イー・アクセスとアッカのDSL事業を将来的に統合することなどは現時点では考えていない。株主として事業を立て直し,企業価値を高めてもらいたい」と主張しているようだ。(注3)”現時点”が大好きな会社である。
私見であるが、今となって思えばイー・アクセスの元々のアッカ株式大量保有の背景には2.5GHz帯に関するモバイルWiMAX免許をアッカに取られた場合の保険という戦略もあったのではないかと思うことがある。
WCDMAネットワークをデータ通信に使うのは、徐々に音声サービスを充実させるイー・モバイルにとって重荷になる日がやってくる。その時、掛けるコストを最小限に、発言権を最大に確保するため、アッカの株取得に動いたのではないか。もちろんアッカ単独での免許獲得の可能性を検討したわけではなく、その背後に居るNTTグループを警戒したのだろう。(注5)
そのアッカによる2.5GHz帯モバイルWiMAX免許獲得が叶わない可能性をイー・アクセス首脳陣が悟った時、ソフトバンクと共同で動き出したのがオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)ではないだろうか。
単なる白昼夢かもしれないが、そう考えると非常に納得の行く話に思えてくるのである。また、このオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)は実質的にはイー・アクセス主導(ソフトバンクは事実上の名義貸し)だったという説があるが、ソフトバンクが名義貸しを行ったのは両社が総務省に対して広い意味での”貸し”をつくるためだったと考えると説明を行いやすい。
なぜ2.5GHz帯のモバイルWiMAX免許が貸しなのか?。2.5GHz帯は移動して通信するための周波数帯としてはとても厳しい周波数帯である。しかし、総務省が進めている周波数再編が完了(2012年めど)するまでは、条件の良い空き周波数帯が無いため各社名乗りを上げざる得なかった。
しかし、本命は800MHz帯の新規割り当てと700MHz帯での40MHz分の割り当てである。今回落選した場合でも本命さえ取れれば、イー・アクセス、ソフトバンクにとって問題は無いのかもしれない。でなければ、パフォーマンスのような出資予定の追加紹介(注6)などのニュースリリース等を説明することが出来ない。本来、このような出資については免許申請時に予め計画書に記載しておくのが筋だからだ。
そして、両社ともにモバイルWiMAX免許を取得できなかったことで、1年半以上前からすでに見え隠れしていた、イー・アクセスによるアッカ買収、統合?へのスキームが動き出したことは間違いない。
(筆者注:間違いがありましたらコメントを受け付けておりますのでご示唆くださると幸いです。)
(注1) IT2000投資事業有限責任組合は、株式会社イグナイト・ジャパンと東京海上キャピタル株式会社が共同運営するベンチャーファンドです。
(注2) http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/18543.html
(注3) http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080116/291252/
(注4) http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/1260.html
(注5) なお、イー・アクセス自身もWiMAX/モバイルWiMAXに関する研究、調査を早い段階から行っていた(ニュースリリースでは2005年5月~)経緯がある。
(注6) http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/37338.html
Update:2008.1.18 前日投稿の時点では校正が完了していなかったため、不足部分を書き加え、hi様よりご指摘いただいた部分を含めて訂正、校正を行いました。hi様、ご指摘ありがとうございました。
投資勧誘目的の不存在
本情報は、昨日発表されたイー・アクセス株式会社のプレスリリースについて知っていただく為のものであり、読者に対して投資を勧誘するものではありません。また、いかなる証券の投資勧誘を目的としたものでもありません。
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